金沢大学でヒューマノイド研究について講演する宮澤和貴PI

2026年9月1日、金沢大学で、第44回日本ロボット学会学術講演会の一般公開オープンフォーラム16「数年後のロボットと私たち — Genbook × SFプロトタイピング」が開催されました。宮澤和貴PI(大阪大学)がオーガナイザーの一人として企画し、ムーンショット目標3 河原塚MIRAIヒューマノイドプロジェクトが後援しました。

宮澤PIは、ワークショップで用いた短編SF『季節を渡る』を執筆し、ヒューマノイド研究のトークも担当しました。読書と対話に活用した「Genbook」は、英文学者の南谷奉良氏(京都大学)が開発したメディアです。

科学コミュニケーターの宮田龍氏と綾塚達郎氏(名古屋大学)も企画に加わり、宮田氏が全体を通してファシリテーターを務めました。

それぞれの専門性を持ち寄り、物語から未来を具体的に想像する「SFプロトタイピング」を通じて、一般参加者の皆さんと、ヒューマノイドと共に暮らし、働く社会の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を探りました。

研究の現在地から、人とロボットの関係を考える

冒頭は、宮田氏の進行で、好きなSF作品を紹介し合うアイスブレイクを行いました。参加者はGenbookにコメントを投稿し、漫画・小説・アニメなどの作品を共有しました。

続く研究トークでは、宮澤PIがヒューマノイド研究の現在地と展望を紹介しました。運動性能の進歩と、人間の生活・仕事の環境で共に働く汎用自律ヒューマノイドの実現に向けて残る研究課題を説明しました。参加者からは、人の形をしていることにどのような意味があるのか、といった問いも寄せられました。

宮田氏によるクイズでは、ロボットや自動運転車が事故を起こした場面を想定し、誰が責任を負うのかを考えました。当初は利用者や製造者に責任があると考える参加者が多かったのですが、未来のロボットに関しては、ロボットに責任があると考える参加者が増え、具体的な場面を通じて、ロボットの性能が向上すると新たな問題が生じうることに目を向けました。

短編SF『季節を渡る』から広がる対話

ワークショップでは、宮澤PIが執筆した短編SF『季節を渡る』を全員で読み、感想をGenbookに書き込みました。参加者同士の返信に加え、ファシリテーターがコメントから生成した画像も、物語の社会を具体的に検討する手がかりとなりました。

ロボットのハルに人間味を感じることへの驚きや、人とロボットが共に働くなかで「同僚」になる関係への共感が寄せられました。その一方で、ロボットの補修費は誰が負担するのか、経験や視界をロボット同士でどこまで共有してよいのかといった疑問も生まれました。物語を通じて、技術への関心が、働く人の役割やロボットとの関係、運用を支える仕組みへと広がりました。

短編SFは、フォーラムの特設サイトから読むことができます。

便利さの先にどんな課題があるのか

さらに、物語の世界で他にどのようなロボットが活躍しているかを想像しました。災害救助、洗濯、子どもの送迎、教育や見守りなど、さまざまな案が寄せられました。作業を担うだけでなく、仲間や相談相手となるロボットも想定されました。

Genbook Forumに並ぶ参加者のコメント、ロボットの修理やプライバシーを題材にした生成画像、AIの返信

Genbook Forumの画面。参加者のコメント、未来社会を描いたファシリテーターによる生成画像、AIの返信が並びます。

議論は、その社会で誰が恩恵を受け、誰に負担が生じるのかへと進みました。Genbookによるコメントのサマリーは、ロボットの所有、利益の分配、負担やリスクの引き受け方を中心に、次の課題を示しています。

  • 負担の軽減と自由時間: 危険・単調・過酷な仕事の軽減や人手不足の補完に加え、高齢者や障害者の活動を支える可能性があります。生まれた時間を本人が自由に使えるかも、恩恵を左右します。
  • 所有と機会の格差: ロボットを所有し、利益やデータを蓄積できる側と、所有できない側との間に、収入や交渉力の差が広がる懸念があります。購入だけでなく、修理・更新や教育・再訓練を受けられるかどうかも問われます。
  • 仕事と人の価値: 仕事の変化は、収入に加えて、役割や達成感、自己肯定感にも関わります。人に残る仕事が低賃金・厳しい監視・重い責任を伴うものに偏らないか、役割を失った人をどう支えるかが問われます。
  • ロボットへの接し方: ロボット自身の幸福や権利をどう考えるかに加え、ロボットへの暴力や酷使が、子どもを含む周囲の人の倫理観や行動に与える影響も論点です。
  • 記憶・監視・プライバシー: 記録の範囲、閲覧権限、保存期間、機体を廃棄する際のデータ削除をどう定めるか。同意していない家族や同僚の情報の扱い、データ提供者への利益の還元も課題です。
  • 故障・事故と責任: 誰がどのような文脈で何を教えたのかを含め、メーカー・所有者・利用者の責任をどう分担するか。長く使うための点検・修理・部品交換・廃棄・保険を支える仕組みも欠かせません。

これらに共通する問いは、ロボットによって減った負担、増えた利益、蓄積されたデータ、生まれた自由時間を誰が受け取るのか、そして人間の価値を労働以外の何によって認めるのかという二つです。技術の進歩とともに、所有・教育・雇用・データ管理・責任に関わる制度のあり方が問われました。

答えとともに、新しい問いを持ち帰る

最後に、挙がった課題を解決した先の社会を検討しました。ロボットを社会のインフラとして共有する案が出る一方、大量に導入した機体の保守点検を将来どう支えるのかなど、解決策の先に生まれる課題も挙がりました。参加者同士の応答を通じ、提案を発展させるやり取りも増えました。

宮田氏の締めくくりの言葉は、「モヤモヤを持って帰ってください!」。一つの正解にまとめるのではなく、人とロボットが共生する社会について、考え続けるための問いを持ち帰る2時間となりました。MIRAIヒューマノイドにとっても、研究が暮らしや社会にどう関わるかを、参加者の皆さんと具体的に考える機会になりました。

開催概要

  • 日時: 2026年9月1日 16:30–18:30
  • 会場: 金沢大学
  • 開催枠: 第44回日本ロボット学会学術講演会 オープンフォーラム16
  • 主催: 名古屋大学大学院人文学研究科附属人文知共創センター
  • 後援: ムーンショット目標3 河原塚MIRAIヒューマノイドプロジェクト
  • オーガナイザー: 宮澤和貴(大阪大学)、南谷奉良(京都大学)、宮田龍(科学コミュニケーター)、綾塚達郎(名古屋大学)
  • ファシリテーター: 宮田龍(科学コミュニケーター)

関連リンク